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山口地方裁判所柳井支部 昭和38年(ワ)38号 判決

原告 テキサコ・インコーポレイテツド 外一名

被告 ナシヨナル・バルク・キヤリアーズ

主文

原告等の請求はいずれも之を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

当事者の求める裁判

原告等両名

山口地方裁判所柳井支部昭和三八年(ケ)第三号船舶競売事件につき同裁判所の作成した配当表中順位四、債権の種類、抵当債権元金、利息及び損害金、債権額元金九、五九九万九、九九〇円、利息三三一万三、九六九円及び損害金二九〇万五、九五三円、交付額五、六九八万二、八一〇円及び被告会社の部分を取消し更に原告両名の各債権額につきいずれも第四順位の優先配当に変更する。

訴訟費用は被告の負担とする。

被告

原告の請求は之を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

〈請求原因等 省略〉

理由

一、争のない事実

原告等が訴外クルクンデスマリタイムインダストリーズ社に対し原告主張のような売掛代金債権(原告テキサコ社について二〇〇万七、〇六一円、損害金一九万三、六六六円、原告カルテツクス社につき三九九万五、一七九円、損害金一〇万二、九九五円を有し之等債権が当裁判所の右任意競売事件において競売された船舶ロツキーポイント号上に米合衆国法上非優先海事先取特権(Non preferred maritime lien )を有し被告が右訴外会社に対し被告主張のような船舶抵当権付債権(九、五九九万九、九九〇円)並びに利息債権及び損害金債権合計(六二一万九、九二二円)を有し右抵当権は米法上右船舶上に優先抵当権(Preferred ship mortgage lien)を有する事実

当裁判所昭和三八年(ケ)第三号船舶任意競売事件の配当期日において原告の異議を被告が認めず異議が完結せず本訴提起となつた事実、原告等の各債権が右配当表から除かれていた事実。

当裁判所において顕著な事実

原被告間に右配当期日に原告の申立てた異議が完結せず、原告等の債権額の合計六〇〇万二、二四〇円及び損害金の合計二九万六、六六一円右合計金額六二九万八、九〇一円が保管されそれ以外の売得金は費用として支払われた外は全部配当を終つた事実。

原告等の各債権及び被告の債権の成立及び効力の準拠法につき考えるに法例第七条第一項によれば先づ第一に当事者の意思により之を定むべき旨を規定している。

弁論の全趣旨より認められる船舶ロツキーポイント号が米国に船籍(米国籍)があり原告会社(テキサコ社)被告会社及び訴外クルクンデス社がいずれも米国法により適法に設立された会社である事実、成立に争のない甲第二号証の一・二がいずれも英文であり米ドル支払の約のある事実と争のない原告等の訴外クルクンデス社に対する前記航海用燃料売掛債権及び被告の右訴外会社に対する前記本件抵当権の被担保債権(右ロツキーポイント号売却代金)成立の各事実を併せ考えると右航海用燃料売却(供給)契約被告の訴外会社に対する優先船舶抵当権付債権(ロツキーポイント号売却代金)はいずれも米合衆国の法律に依る意思を当事者が有していたものと認められ右債権はいずれも米合衆国法上適法に成立したものと認められる。

争のない請求原因第二項の事実及び被告主張の事実に右債権の準拠法たる米合衆国法を適用すれば右原告等の債権は担保のため先取特権(maritime lien )が米合衆国法タイトル46セクシヨン971により認められ右被告の債権には優先抵当権(Preferred mortgage)が米合衆国法タイトル46セクシヨン953・952・951により認められている。即ち右各債権の準拠法たる米合衆国法が船舶抵当権、船舶先取特権をいずれも認めている。

よつて船舶上の担保物権の準拠法につき我国の国際私法の規定につき考えることにする。

船舶上の担保権の準拠法

法例第一〇条は動産及び不動産に関する物権はその所在地法によると定めている。船舶は動産であるけれども船舶はそれ自身において常に移動し短時間の中に一つの法域より他の法域に移る性質を持ち動産、不動産とは異る性質を持つているから法例第一〇条の所在地法の原則が適用がなく従つて船舶についての物権関係の準拠法については我が国際私法上明文の規定を欠くものと解する。

船舶上の担保物権の準拠法の決定につき三つの見解が考えられる。

一、所在地法説 船舶所在地の法律によるとする見解

これによると移動する船舶において船舶の所在地法により既に生じた担保物権は所在地の変更に拘らず新所在地法によつても当然承認されるべきであるけれども既に所在地法によつて適法に発生した担保物権が新所在地法によつて抵触する限りその限り行使できず否定する時は全て行使できないことになる(船舶先取特権において特に然り船舶抵当権は船舶の本国において設定せらるるを通常とする)から所在地法の必要性は一層少い。船舶が所在地を常に移動する性質を持ち所在地法を異にする数多の担保物権が発生し統一的に決定し法律関係を明確化することができない。

二、法廷地法説 船舶の差押地の法律によるとする見解

これによると債権発生当時既に確定的に取得された担保物権を船舶航行の偶然性によりまた或る利害関係人が自己の最も有利とする地において船舶を差押えようとする悪意により変更し否定しさらに発生せしめ正当に取得された既得権保護の国際私法の原則が無視される。

三、旗国法説 船舶の旗国法によるとする見解

船舶は動産であるが不動産の如く又自然人の国籍ある如く国籍即ち船籍を有しこの国籍の存在は船舶の国籍証書により又船舶の掲揚する国旗により第三者により認識される。

これによると担保権は予め確定せられ実行の場所如何により変更することがなく既得権尊重の国際私法の原則に適し担保物権関係を統一的に決定し法律関係の明確化を期することができ妥当である。

よつて船舶は動産であるけれども船舶に関する物権は右第一〇条の所在地法の原則は適用されず船舶についての物権関係の準拠法については我が国際私法上明文の規定を欠くが我が国際私法は条理として船舶上の担保物権(先取特権と抵当権の順位をも含む)の準拠法については旗国法説を採るものと解する。

競売船舶ロツキーポイント号が米合衆国の国籍を持つていたことは前記認定の通りである。

ロツキーポイント号の本国法たる米合衆国法タイトル46セクシヨン953によると「船舶優先先取特権、優先順位その他の先取特権」の標題下に次のように規定している((a)項の(1) として又(b)項として)、

a、本章において以後用うる「船舶優先先取特権」(″Preferred maritime lien ″)なる語は(1) 本章の規定に従い優先抵当権(a preferred mortgage)の登録及び裏書保証のされる以前に生じた先取権を意味する。(2) 省略。

b、海商法上の船舶優先抵当権(a preferred mortgage lien thereon )実行のための対物訴訟において米合衆国地方裁判所(a district court of the United states )の命令によつて抵当権の設定された船舶が売却される場合は、同船舶上に存するあらゆる債権は本編タイトルセクシヨン952の規定によりその権利が剥奪される担保権者の普通法上の留置権を含めて消滅し爾後船舶は売却代金上に同額同順位をもつて存するものとする。但し優先抵当権は(preferred mortgage lien )(1) 優先先取特権(the preferred maritime lien )及び裁判所によつて認められた経費ならびに支払金及び徴収された費用を除き船舶上の凡ての債権に優先する。

旗国法たる米合衆国法タイトル46セクシヨン953によれば被告の債権は原告の債権に優先して支払を受ける効力を有するものである。当裁判所において本件配当事件として原告会社等の債権合計額及び損害金合計額の総合計六二九万八、九〇一円が配当が留保されていること前記認定のとおりであり、当庁昭和三八年(ケ)第三号競売事件の売却代金交付計算書中の被告会社への交付額五、六九八万二、八一〇円(売却代金交付計算書の第四欄の被告会社への交付額)は右売却代金交付計算書の第四欄の被告の債権額の一部であり被告に既に交付した金額と本件異議により交付の留保されている右六二九万八、九〇一円の合計が被告の債権額の一部であることは当裁判所に顕著な事実であり、右六二九万八、九〇一円は被告会社に交付すべきものであつて原告会社等に交付すべきものでないことは明らかであるから原告の当裁判所作成の配当表(売却代金交付計算書)中第四欄を取消し右交付額より右六二九万八、九〇一円を差引いたものを被告交付額とし、原告等に右六二九万八、九〇一円を配当するよう配当表の変更を求める原告等の請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九三条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 英一法)

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